お寺生まれのCTOが考える「一緒に食卓を囲む」意味。 組織と会社の新しい形とは?


お寺生まれのCTOが考える「一緒に食卓を囲む」意味。 組織と会社の新しい形とは?

食べることが好きな人をつなぐ「みん食」コミュニティサイト「KitchHike(キッチハイク)」を運営する株式会社キッチハイク。今回は共同代表でありCTOを務める藤崎祥見さんに、「まかない」を通じて生まれるコミュニケーションや”食”による交流へかける思いをうかがいました。美味しい「まかない」の写真と一緒にお読みください。

目次
  1. コミュニティ活動から始まったエンジニアへの道
  2. 社員は同じ釜の飯を食べる家族であり共同体
  3. チームは「同じ食卓を囲める人数」に抑える
  4. 未来のユーザーを見据えたサービス設計
  5. 世界を変えて、失ってはいけないものを守りたい
  6. 料理を通じた交流が必ず世界を変えていく

藤崎祥見さんプロフィール:
株式会社キッチハイク 共同代表 / CTO。 大学在学中に休学し、京都へ渡る。1年間の修練後、西本願寺で住職の資格を取得。
世界中の人々が無償で1つのものを創り上げていくオープンソースコミュニティに仏教の世界観との共通点を見いだし、エンジニアとして活動をはじめる。2013年に山本雅也と共同でキッチハイクを創業。
MongoDB JPコミュニティ、MongoDB勉強会の主催者。2012年からgihyo.jpでMongoDBに関する技術記事を連載する。
執筆: MongoDBでゆるふわDB体験 http://gihyo.jp/dev/serial/01/mongodb

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コミュニティ活動から始まったエンジニアへの道

--では「まかない」の準備をされている間にお話を伺っていきたいと思います。そもそもこの「まかない」はどういう経緯でいつから始まったんですか。

2016年10月に第1期社員として入社した大野(マーケティング担当)がきっかけですね。もともと彼女はキッチハイクのユーザーだったんです。

それで、サービスをよりよくしたいと思って入社した大野が、運営側としてもサービスの根幹である「みんなで食べる」を実践していきたいということでランチで「まかない」を作り始めたのが経緯です。

--ユーザーから入社したケースは多いんですか。

ユーザーから入社したケースは実際にあり、社員10名中2名が元ユーザーです。また、エンジニアの小川は奥さまがキッチハイクのローンチからのヘビーユーザーで、みんなサービスへの強い共感を持ってくれています。

--今は何名いらっしゃるんですか。

社員が10名、業務委託10名ぐらいなのでメンバー合わせて20名ほどです。 今日のまかないの献立は、私が人生で一番食べている「お寺の精進料理」を作ります。

--楽しみです。おそらく、この質問は何十回も聞かれていると思いますが、どうして仏教の世界からエンジニアになろうと思われたんですか。

私が職業としてのエンジニアを意識し始めたのは、OSSにかかわり始めてからです。

その頃、debianというLinuxのディストリビューションのOSの勉強会に学生で参加してて。

こういう世界があるんだとOSSへの興味が湧いて調べ始めたところ、何やら世界中の人々がボランティアで一つのものを作り上げているぞ、と。

ソフトウェア開発はプロセス、コミュニティが本質だと私僕は思うんです。 Linuxのカーネルだったらリーナスというリーダーもいて、コミュニティを作りながら、ソフトウェアを育てていますよね。

--エンジニアとしてコミュニティに所属して活動すること自体が第一の価値という感覚ですか。藤崎さんは、コミュニティ作りというか、人と人との交わりがお好きなように感じます。

私は生まれた時からお寺にいて、仏教も2500年続いている一種のコミュニティです。

コミュニティには”始まり”と”成長””成熟””衰退”のライフサイクルがあるんですが、お寺には伝統を守ること自体が美学という考えがあるんです。

もちろん、今大人になって振り返ると、伝統を守ること自体が美学ということもわかります。

--様式美というものもありますね。

変わらないことを期待されている、永続性を期待されているというのが世間のニーズというか。

--企業に置き換えると、世界宗教は東証一部の上場企業、そこに集まるユーザーや社員もここだったら間違いないだろうと考えます。

はい、冪等性(べきとうせい)の保証というか、数十年後も同じクオリティで返ってくるよう求められているのだと思います。

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社員は同じ釜の飯を食べる家族であり共同体

--キッチハイクの話に戻ると、「キッチハイク」というコミュニティのライフサイクルとしては、今まさに成長している段階です。採用ページを拝見して、社員のご紹介でもその方のプライベートな情報だったり、仕事以外のパーソナリティも大事に伝えようとされている印象があります。
--いわゆる、会社の社員紹介って前の職場でこういうことをやっていたこの人がこの職種でジョインしてくれましたっていうのが多い。そこに、一歩踏み込んでプライベートなことまで言っているのって、キッチハイクでの仕事のやり方にも通じるところがあるように思えるんですが。

まさにその通りで、同じ釜の飯を食うというかご飯を一緒に食べ始めると、家族みたいになるというか。

そもそも家族ってなんだろうって考えちゃうんですよね。

血縁関係があっても一緒にご飯を食べない家族もいるし、そんなに喋らない家族もいます。

我々は一週間の大半、平日だとほぼ三分の一を一緒に過ごしています。

朝は、早くに来て朝ごはんを食べる人もいます。昼は毎日みんなで食べ、夜は、遅くまで残っている人がいれば誰かが作って食べることもあるし、 そう思うと、前職でどういうことをやってたかっていうとよりも、どういうパーソナリティーなのかが必要なんだろうとなります。

--家族と企業の関わりを考えると、悪い意味での「家族経営」だと、家長がいてその人が家の中を全部決めている、そういう家族観もあれば、みんなで同じ屋根のした共同生活している、身を寄せ合って暮らしているという家族観もあるこの後者でイメージされているのが強いですね。
--仏教ではどちらかというと師から色々と教えや僧位を与えられてピラミッドなイメージ、「家族経営」でいえば前者のイメージもあります。藤崎さん自身ではどういう捉え方をしていたのでしょうか。

組織のピラミッド型階層構造というのは、実はsnapshot(ある時点の構造を切り取ったもの)だと思っています。

年功序列によるピラミッド型階層構造があると、偉くなるのに時間がかかるという特徴が出てきます。

それは知識の量がコミュニティにバリューを出せるものに直結しているからだと思うんです。昔からの出来事の生き字引きとか、例えば釈迦の直弟子は、バリューがすごく出せる存在です。それは自分が直接聞いた釈迦の言葉をそのまま伝えられるから。

本人がそのままコミュニティのバリューになるという構造があるので、年功序列が自然に出来上がっていき、古くからの生き字引とか長老が崇められ、コミュニティのバリューになるんです。

一方で、エンジニアやサイエンス、数学なんかは顕著で、若い人がバリューが出せると思うんです。

階層の出来上がる仕組みやロジックについて、単純に構造面でいうと時系列の仕組みがあると思ってます。

そういう仕組みがあるとピラミッドになる一方、エンジニアは時間がバリューに直結しないのでホラクラシーの組織が作れます。

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チームは「同じ食卓を囲める人数」に抑える

--企業におけるピラミッドが出来上がっていく構造と非常に似ているように思います。ただ、人数が増えるとフラットな評価制度をどう作り維持するかについて悩まれることも多くなると思いますが、キッチハイクでの評価、給与の決め方、どう考えていらっしゃいますか。

なかなか答えにくい質問ですね(笑)

初めての社員が入ったのも1年半前なので、まだかっちりとした評価はないのですが、意識しているのはKPIです。 チームとしてキッチハイクという大きなチームの下に、プロダクトチームと、グロースチームがあって、それぞれKPIは意識しています。

半年ほど前にバックオフィスのメンバーが入ってくれて整備中なので、いろんな意味でこれ以上話せることがあんまりなくて。

--人数が増えると、音楽でいうオーケストラのように、強制力を持ってコントロールしたくなるかと思います。セッションのように自由度を持たせるのは難しい。何名ぐらいまで、今のような体制をいこうとしていますか。

それはマジックナンバーだと思ってて、とても興味深いです。

プロダクトチームでは、いったん10名前後を考えてます 全体は10名で、一つのプロジェクトを進めるには3名か4名ぐらいがいいと思っているので、グループでいうと3名、3名、4名、でいこうと。

そこの数字は、私たちのサービスの中でも経験値というかノウハウがあって。

みんなで食卓を囲う「みんなの食卓」というサービスをやっているんですが、今は10人と8人、少なくても6人ぐらいがいいんじゃないかって実験してる途中です。

10人以上になると会話が分断される感覚があります。

--イベントでもテーブルに10名以上いるとバラバラに会話する傾向があるように感じます。お互いにご飯を食べるというのがコミュニケーションの仕掛けとしては大きいと思うのですが、他にはありますか。

うーん、他にはないかもしれない、まかないに一点注力ですね。

まかない絶対主義みたいな(笑)

まかないの前後の体験、調理や洗い物の時間はコミュニケーションに大切な時間だと考えて設計しています。セッション的に調理の時間でコミュニケーションをとる、洗い物を誰がするかはじゃんけんで決めて、食べた後にも毎日自然にコミュニケーションが取れるようになっています。

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未来のユーザーを見据えたサービス設計

--なかなか体験をしないとわからない部分ですが、そうした共通の体験をしたことがどう仕事に生かされたか、何か例はありますか。

私たちのサービスは「みんなでご飯を食べる」ことがコンセプトですが、実際に会社で毎日みんなでご飯を食べていると、本当に心の底からサービスに共感できるんです。

「みんなでご飯を食べる」という世界が人生を良くするんだというのが実感できて、自分たちが世界を変えられるし、このサービスは人類の未来に必要なんだというのが納得できるんですよ。

メンバー全員が「自分たちのサービスが”未来に必要だ”」と心から思えることが、本当に強いことだと思っています。 また、その思いが、キッチハイクの原動力になっています。

--常にドッグフーディングをしているという。

「まかない」なのにドッグフーディング(笑)

納得感があるから、こういう機能があったらいいよねと思えることはすごく多いですね。

具体的な話でいうと、私たちは「全員で食卓を囲むこと」を大事にしているので、サービスでもイベントで食卓を囲む参加者がわかるUIにしています。非表示にすることもできますが、食卓を囲むメンバーが大切だよねっていうことをみんながしっかり納得しているから、ここが大切だっていうのにブレがなくなるんです。

そういうのが積み重なることでコミュニケーションコストが減り、優先度決めでズレもなくなり、ディスパッチがしやすくなります。

私はCTOですけど、委譲したデザイナー・エンジニアたちがどんどん決めていける。

ただ決めるにも軸がいるので、開発カルチャーのバリューの一つに「フューチャーユーザーファースト」という言葉をおいています。未来のユーザーのために必要な機能、必要なデザインを作ろうという意味です。

プロダクトのUIで参加者を前面に出すのもそういう意図のもとで判断しています。

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世界を変えて、失ってはいけないものを守りたい

--自分が参加していることを見られたくない人もいる、でもそういう人を増やそうと考えているわけではなく、お互いにどういう人がいるんだろうというのを楽しんでくれる状態を作っていきたいからこういう設定をしているということですね。
--未来のユーザーファーストを考えられるようになったきっかけはなんですか。

共同代表の山本との、日々のセッションがきっかけなんです。

二人とも、世界を変えたい、世界平和が目標だよねってずっと言ってて、変えた後の世界を一秒でも早く見たいと言ってたんですね。

世界を変えるのはリプレイスではないよねというのもよく言ってました。

今までのインターネットになかったものをインターネットに持ってくる、何々のリプレイスですってサービスは人に説明しすいし数字も追いやすい。

キッチハイクは何かのリプレースではないから説明がしにくい。

だけど、私たちは、今までなかったもの、失われつつあるものを作りたい。

昔は、みんなで食べてたわけじゃないですか、200年前とか500年前とかは。

この50年ぐらいの間に一人で食べることが多くなって、私たちが失いつつある「大切なもの」、そういう私たちにとって新しいものを作り出そうと。

そうなると必然的に、今までにないものを皆さんに提供していくので、未来のユーザーを優先させることなります。

具体的な話でいうと、キッチハイクってSEOのキーワードがなかったりするんですよね。

「みんなで食べたい」とか検索しないわけじゃないですか。

「みん食」などのキーワードも自分たちで作ろうという発想になって。

--ランチなどは検索するけど、みんなで食べようってなかなかないですね。

「知らない人 みんなで食べる」とか検索しませんよね。

検索って自分の想像の範囲でしか調べられないので、SEOではユーザーを大きく獲得しにくいと考えています。

そういうのが今の改善を追いすぎない、未来のユーザーを優先するというものにつながっているところもあるかもしれません。

--元々、共同代表の山本さんが海外で一般の家庭へ行って家庭料理を食べていた経験からサービスを作ったんですよね。

山本が世界を回ったのは、キッチハイクのコンセプトができたあとで、実は検証の旅なんです。

当時は誰かの自宅にお邪魔してその人の手料理を食べるというコンセプトだったんです。それで「本当に人は仲良くなれるのか」、もっと抽象的にいうと「人は食事を通して仲良くなれるのか」。私たちは「仲良くなれるよね」と話していて、山本が「じゃぁ、世界で実証してくるわ」と(笑)。

世界中回って、PDCAのDoをやってたっていう、壮大な仮説検証の旅ですね(笑)。

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料理を通じた交流が必ず世界を変えていく

--日本だと心理的な抵抗もあるんじゃないかっていう難しいマイナス意見もあったかなと思うんですが、ご自身ではどういうお話をされていたんでしょう。
--今こういう状態をスタートの時に想像されていたんでしょうか。

順番でいうと、どんなサービスを作りたいか、よりも交流の方が先だったと記憶してます。

世界が平和になったり、人々の人生が豊かになるにはどうすればいいんだろうかというのを話をしてました。

そこでの一つのキーワードとして「交流」があって、そこから人が交流したり仲良くなるためのフックとして「料理」があるんじゃないかという感じです。

原体験を振り返ると「確かにそうだよね」と。

私の実家はお寺なんですけど、門徒さんが集まってみんなでご飯を食べるんですよ。

お寺は地域の寄り合い所という機能もあるんです。小さなお寺だったので 20人から50人なんですけど、みんなで作って食べると、新しく引っ越してきた人も知り合いになって、お寺を中心にコミュニティができていました。

--人と人との新しい交流を、リプレイスではなく、新しい形で。コミュニティを作ろうとしていく中で、必然的にたどり着いたのが料理だった。

サービスを考える時に、交流のメカニズム、デザインというのは意識していました。

例えば、よく山本が文化人類学の話をするのですが、民族が交流する時にまずは分割不可能な液体や煙なんかを分け合うという話があります。

例えば、角型のお酒を飲む器があります。

あれはそのまま床に置けないので常に手に持ってなきゃいけ

なくて、そうすると、酒が注がれることになるし回し飲んだりしてコミュニケーションが発生します。

分割不可能な煙を分け合うタバコも民俗学では研究されていて、いまでもタバコは社交の一つ。

現代における交流のキーになるものを考えた結果、食にたどり着きました。

--チームビルディングには文化人類学を活かせますね。今日は、仏教からチームビルディングまで幅広いお話をありがとうございます。そろそろ出来たようなので、お食事に移りましょう。

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※インタビュー日のまかない。とても美味しい精進料理でした!


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CodeCampus編集部
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CodeCampus編集部
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