- 公開日: 2017年05月22日
ARを搭載したバイクの用スマートヘルメット「LiveMap」とは?
オートバイ用拡張現実(AR)スマートヘルメットはクールなコンセプトでありながらも、いまだ大衆市場には出回っていません。その理由は、開発にかかるコストと構造の複雑さにあります。ARスマートヘルメットを携え知名度を上げたあのSkully社も、いまや活動を休止している状態です。
戦闘機のパイロット達は、すでにF-35(ステルス戦闘機)用に開発したARヘルメットを活用しています。装備されているHUDに、自分の顔の目の前のディスプレイからデジタル情報を取得し表示。ですが、費用はというと、40万ドル(約4000万円)もかかります。
Andrew Artishchev(以下、アンドリュー氏)はARスマートヘルメット市場への進出をまだ諦めてはいません。同氏は、AR HUD(ARヘッドアップディスプレイ)を装備したオートバイ用スマートヘルメット「LiveMap(ライブマップ)」を約1年で完成・販売できるとの期待をもっています。
ARスマートヘルメットにつきまとう困難
オートバイ界では世界最大規模の家電市「CES 2016」(コンシューマー・エレクトロニクス・ショー)のために、BMWがHUDヘルメットのプロトタイプを作り上げました。ただ、実際に開発した段階についてはあまり意欲的に表明していません。
一方クラウドファンディングの「indiegogo」で2400万ドル(約24億円)以上の莫大な資金を調達していたことで、最もよく知られるARスマートヘルメットの先駆けであるSkully社は、倒産しただけではなく、創業者たちは訴訟に直面。調達した資金を、ストリップクラブなど本来の目的に反して使い込み、浪費したことが要因です。
なお新たに参入したNuVis社も、同様に失速しそうです。2015年11月の発表以来、何の音沙汰もありません。資金調達の手段を提供する「Kickstarter」で20万ドル(約2000万円)を調達したにも関わらずです。
もしHUD装備のヘルメットを実現するならば、とても苦労することになったでしょう。2016年8月現在では、Fusar社がある種の進化型デジタルディスプレイに取り組んでいますが、実際真剣にHUD装備のヘルメットを作ろうとしているようには見えません。
GPS機能を活用できるAR HUD搭載オートバイ用スマートヘルメット
発明家であり、オートバイ愛好家なアンドリュー氏は「LiveMap」社を設立。同氏の資産60万ドル(約6000万円)をかけて、GPS機能を活用できるHUDを搭載したバイク用スマートヘルメットを、1年ほどで作り上げようと試行錯誤しながら開発しています。
さらに、2つのプロトタイプを作り出したと同氏。いくつかのイベントで披露するために、2016年の初めには2作目を米国カリフォルニアに持ち込んだという噂です。
資金調達
アンドリュー氏は当初、製品を市場に出すための投資資金1000万ドル(約10億円)を得たいと考案。以来300万ドル(約3億円)を集めて、「あるモーター・ブランド」からの委託業務を確立したとのことです。どのモーター・ブランドかは、機密保持契約により再び伏せられたままでしたが、ロシア政府からのいくつかの資金の流れによってもバックアップされてもいます。
「LiveMap」を向上させるためには後の700万ドル(約7億円)を残しますが、アンドリュー氏は製品を何とかして市場にまで持ってくると熱心に主張してきています。
LiveMapの使用感は走行スタイルに問題
ヘルメットを装着したライダーの感覚を味わっているため、「LiveMap」をつけた時のハードウェアはヘルメットの顎あたりの大部分を占めますが、GPSナビゲーションの画面上の表示は明るくクリアに見えるそうす。
あくまで実物そっくりに再現したサンプルを試しているに過ぎませんが、実際の製品を装着して走行した場合のシステムの使用感は伝えられないとのこと。ですが、ウィンドウを通して見える道路上の表示は、十分にシャープであると確認ができ、例えるなら、スマートグラスの「Google Glass」よりもすごいそうです。ですが、走行中に目の前に浮かぶ情報に慣れるために、少し時間はかかるかもしれないとのこと。
オートバイに乗っている最中に、スマホを手にとって電話するような行為は危険です。しかし、多作のオートバイジャーナリストWes Siler(ウェス氏)が考えるには、GPSを搭載したHUDヘルメットはハンドルバーマウントと、走行中の道路を記憶する機能に優れているそうです。
おそらく、走行スタイルの問題なのだろうと推測できます。都会の街並みでの走行と、快適なビーチクルーズや狭い路地の走行と、ハンドルバーマウントのカップホルダーから飲み物を飲みながらの悠々とした航海。どちらもが面と向かってあれこれでてきますが、長距離走行と単なる街乗りのどちらにも魅力が発見できます。
バイザーに向けてグラフィックを投影する機能面
「LiveMap」の最初のプロトタイプは、ヘルメットの上部に取り付けられたプロジェクタからバイザーに向けてグラフィックを投影する製品でした。ただしその方法では、大部分が非実用的でかつデザイン性がありません。一般消費者が運転時に装着したくなるような商品を開発してほしいと思いました。
2回目の開発ではプロジェクタからバイザーのユニットを顎のあたりに移動させ、上向きに投影させる形へと変更しました。
グラフィックを歪めずに表示させるために、バイザーは部分的に平坦という珍しい形状を採用しています。アンドリュー氏は、見直しをすることでこの点は無くなるであろうと予想。バイザーは投影される表示をキャッチする、シームレスなレンズになるでしょう。
実用化に向けてハードウェアを組み込む予定
実際のヘルメットは、インドネシアの工場から重さ約3ポンド(約1.3kg)の無印カーボンモジュラーユニットを使用した、フリップアップのものを計画しています。ちなみに同工場が生産しているブランドモデルについて、同氏は「NDA(機密保持契約)により、ブランドの製作者に関する詳細を発表できません」と、コメントしました。
アンドリュー氏は、HUDシステムのためのAndroidベースのソフトウェアが完成したことも伝えました。Nuance社からの音声認識と、カーナビの地図とリアルタイム交通情報を提供するNavteq(ナビテック社)からのGPSマップが実現します。
彼が最終的に「LiveMap」ヘルメットの実現をした場合、Bluetooth接続と、Sony 4Kのライブストリーム機能付きアクションカメラを組み込む予定です。カメラや興味のある場所についてなどはLTEで接続できるが、その間ナビゲーションの衛星信号は外れます。
LiveMapの規格
ハード部分のアウトソーシングは、「LiveMap」がヘルメットの安全性を開発する上で重要な負担の回避に役立つでしょう。ユニットデザインの安全規格はすでに、米国・北欧・日本で通っているそうです。それが本当ならば、「LiveMap」のハードウェアはアーキテクチャをいじらずとも、既存のヘルメットの形状にフィットする限りは米国の安全規格「DOT(合衆国運輸省認定規格)」の承認・取得には何の問題もありません。
ですが、DOTは欧米人の頭の大きさが基準であるため、ヘルメットの寸法に対して日本人を含むアジア人の頭部にはマッチしないはずです。米国人と日本人の安全性に対する考え方が微妙に違うので、衝撃吸収性能や重量、構造などの規格が一致しないのでは? と考えられます。
また、オートバイを運転するにあたって重要なことは、「視野を妨げることのない構造であること」です。HUDが搭載されたスマートヘルメットを運転者の目の前のディスプレイに表示して運転したとき、走行者にとって走りを妨害している存在であると判断される可能性もでてきますね。
価格は少々高め
法外に思えるかもしれませんが、2,000ドル(約20万円)、事前予約で1500ドル(約15万円)ほどになると推測されています。
そのぐらいの金額を出すなら、品質の良いオートバイ備品を頭の天辺からつま先に至るまで揃えることだって可能です。地域情報コミュニティサイトの「CraigsList(クレイグスリスト)」で探せば、原付バイクを2台買うことだってできます。
価格の正当性は対価に相応
アンドリュー氏が述べる価格の正当性は、このヘルメットひとつで、GPS・マウンティングキット・カメラも同時に手に入ることだといいます。否定的な意見も多いですが、これらのシステムの統合に独自性があるのは確かです。
AR HUD搭載のスマートヘルメット「LiveMap」は、年間3~4万個ほどの販売を見込んでいるといいます。
LiveMapの今後は世界へ拡大
「LiveMap」は、2017年の第2四半期に、第1陣として1,000個のヘルメットを提供予定です。米国、追ってカナダ・イギリス・オーストラリアと続きます。2018年には、日本・台湾・韓国・ロシア・ドイツ・フランス・スペイン・イタリア・ギリシャ等にも販路を拡大したいと考えているそうです。
このAR HUD搭載スマートヘルメットが実行可能なプロジェクトであるかとうかの答えを出すには、まだ疑問が残ります。例えば、どんな流通システムがあるのか? 顧客サービスは? マーケティングは? そして、おそらく最も重要なことは、ブランド価値が正当に評価されるかどうかです。たとえ2,000ドル(約20万円)という高価格でも支払うことを選択肢にいれてくれるであろう、特別な安全性を求めるライダー達に、信頼できるブランドであると納得してもらうことが課題になります。
同社がオートバイのために市場へHUDとARをもたらすというのは、素晴らしいこと。まだ誰も知らないが、間違いなくアンドリュー氏は業界のパイオニアです。
記事寄稿:GETAR
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