Business Innovation Center (BIC)を設立し、大企業としてのビジネス変革、新規事業の開発に取り組むコニカミノルタ株式会社。
新しい組織を通じて、事業創出、組織風土改革、イノベーション人材の育成などに挑戦しています。今回はコードキャンプの事業開発、プロトタイピング研修を導入したコニカミノルタ BIC Japanの取り組みについてお話を伺いました。
コニカミノルタ株式会社
ビジネス イノベーション センター ジャパン(BIC Japan)(写真左二番目から)
所長 波木井 卓氏、ソフトウェアデベロップメントリード 濱田 洋太氏、リサーチャー 大原 徳子氏、インキュベーションリード 丸山 一直氏
インタビュアー:コードキャンプ株式会社 取締役 COO 堀内 亮平(写真左)、デジタル人材開発支援室 井元 健太(写真右)
新規事業立ち上げに特化した組織をつくる
(堀内) 本日はよろしくお願いします。まずは、コニカミノルタ Business Innovation Center(以下、BIC)という新規事業開発を行うための組織が生まれた背景についてお話を伺わせてください。
(波木井 氏)まずコニカミノルタという会社は、2003年の経営統合(コニカ社、ミノルタ社)によって生まれた企業です。もともとはカメラのフィルムの販売を主な事業として行なっていましたが、統合をきっかけにそれらの事業を売却し、今は複合機を軸にしたソリューションを提供しています。
ただ、現在ではその市場も停滞しています。インターネットやスマートフォンの普及によって、時代はペーパーレスに移り変わり、複合機以外のビジネスへの挑戦を模索するようになりました。
そのような状況の中「事業のトランスフォーム」を掲げ、既存の事業以外の新規事業に挑戦するための場所として立ち上がったのがBICです。
これまでの技術やビジネスの領域にとらわれることなく、完全に新しい事業領域を狙って新規事業に取り組んでいます。また、自社技術にこだわるのではなく、スタートアップや大学と柔軟に連携することで、新しい技術や市場の発見に注力しています。
世界の先進5拠点で、事業開発に挑戦
ーーBICでは、シリコンバレーに代表されるようなスタートアップの集積地に拠点を設けていたり、社内外から優秀な人材を集めて事業開発に人的な投資を行っていると伺っています。現在までに至る経緯についてお話をお聞かせください。
現在、世界中に5つの拠点を設けています。シリコンバレー、上海、シンガポール、ロンドンなど、スタートアップが盛んなエリアに組織を立ち上げることで、イノベーションを起こす事業を創造するための活動を行なっています。
どの拠点も独立して事業開発を行っており、事業の成長性や地域ごとのプロダクト・マーケット・フィットに合わせて各地で生まれた事業を横展開していく仕組みになっています。
コニカミノルタ全体で見てみると、現在はグループ全体の売上高が1兆円規模になりました。世界約150ヶ国で事業を展開しており、4万人を超える社員が世界中で働いています。
しかし、BICではこれまで挑戦したことのない新たな領域のビジネスに取り組むわけですから、そのような事業立ち上げを経験したことがある人材はBIC立ち上げ当時、社内にはいませんでした。
なので、BICの立ち上げ期では社外から新しいメンバーを集めるところからスタートしています。私も含めて、外部から起業やベンチャーの経験などがある立ち上げメンバー10名を揃え、今までのコニカミノルタとは違うアプローチで組織をつくっていきました。
新規事業を推進するためのプロジェクトマネジメントができる人材という軸で中途採用を行って組織を立ち上げたあとは、社内公募も行い現在は1/3がコニカミノルタの社員となっています。
ちなみに、社内公募といっても採用基準は決して緩めておらず、必須となるスキルや採用要件は中途と同様の厳しさで選考しているので、かなりハードルが高く設定されていると思います。
今では、世界5拠点でそれぞれ20個ずつ、合計100個のプロジェクトが新規事業として動いています。それぞれ、ポートフォリオとしては既存ビジネスに近い事業が40%、既存ビジネスよりも更に先に踏み込んだ事業が40%、完全な新規事業が20%というバランスで事業開発に挑戦しています。
イノベーティブな組織をつくる研修
ーー今回はコニカミノルタ本体の社員の方々も含めて、新規事業開発の流れを体験するためのプロトタイピング研修を実施させていただきました。コードキャンプの導入を決めた背景について教えてください。
これまで、BICではイノベーティブな組織文化をつくる目的でコニカミノルタの社員を呼んで「BICフェスティバル」と称した14回の研修を実施してきました。過去に行った研修は、アイデア発想の方法論やデザイン思考など座学を中心に行われています。
今回の研修では、デザインやアイデアの発想法を学ぶだけではなくハッカソンのように手を動かしながら形にしていけるような内容にしたいと考えており、幅広く企業さんにご相談していました。
そんな中で参加者に合わせた難易度や、実践的な内容であることなど、当社の要望を考慮して柔軟に研修を組み立ててくださったのがコードキャンプさんでした。
また、BICフェスティバルは我々にとってはコニカミノルタ本体にいる社員の人材発掘の場でもあります。過去にBICに異動してきた社員もほとんどがこの研修の参加者でした。イベントに参加して楽しみながら学ぶだけではなく、その後の講師との交流の時間も含めて大切にしています。
ーー今回はかなり内容を圧縮して、1日でアイデア出しからサービスのプロトタイピングまで行うというタイトなスケジュールでの実施となりました。その反面、どのチームもアウトプットの質が高く、普段から顧客志向やビジネス開発についてよくトレーニングされている印象を受けています。
そうですね、プロトタイピングに主眼を置いた研修だったので、これまでの研修でも触れてきているデザイン思考についてなどの基礎知識は簡略化し、実践に注力していただけたと思っています。
手を動かす時間を長くとって一日で完成することを目的としていたので、全てのチームが時間どおり終えられるかどうか不安な点もありましたが、参加者の満足度も高く希望通りのプログラムになったのではないでしょうか。
最終的なアウトプットに関してもおっしゃる通りで、思っていた以上の完成度でした。研修内容には非常に満足しています。
ーー研修提供者の目線で見ると、希望者を募って実施している研修だということもあり、みなさんのモチベーションが高かったことも非常に印象的でした。あるチームでは、研修後も事業として形にしていきたいということで、素晴らしく熱量のある場だったと感じています。
大企業の枠を越えて挑戦を
ーー今回のような研修(フェスティバル)は、コニカミノルタ本体にイノベーティブな風土を育てるという目標に対してどのように貢献できているのでしょうか?
フェスティバルは、BICの文化やイノベーティブな雰囲気を感じてもらい、その魅力を伝えたいという想いから行っている取り組みです。
研修後に、コニカミノルタ本体からBICに移りたいと声をあげる社員もいますし、今までは知られていなかったBICの取り組みや、想いが認知されてきた証拠だと思います。
コニカミノルタは大企業で成熟した事業体であることもあり、昔ながらの風土も残っています。しかし、BICではその概念を取り払ったスタートアップのような風土なので、自分の想いや考えを発信して、チャレンジしたいと思う人にとっては魅力的な環境なのではないかと考えています。
ーー社内から、「優秀な人材をBICに引き抜かれている」と思われたりするようなことはないのでしょうか?
私たちとしては、本体からBICに人材を引き抜いているという感覚はありません。本体で学んだことをBICで活かしてもらうこと、その逆にBICから本体に戻って活躍してもらうこともできると思っています。
国内の拠点だけではなく、シリコンバレーや上海などの海外拠点にも異動できる機会がありますし、BICを通じて多様な経験を積むことができる環境だと思っています。
当社は大企業とはいえ、リモートワークを奨励していたり、兼業と副業、ジョブ・リターンの制度など柔軟に働くことができる制度も整備しているので、多様な視点で物事を捉えられる人材が増えることで、グループ全体のノベーションに繋がると考えています。
ーーBICという「出島」を用意することで、新規事業の創出と社内の風土改革、多様な経験を持つ人材の育成を両立されていることは非常に素晴らしいことだと思います。最後に、組織としての今後の展望を教えてください。
今コニカミノルタでは、シリコンバレーに代表されるような海外拠点での仕事にチャレンジする社員が増えています。
既存事業と新規事業の両方を経験することで、大企業の堅実さとスタートアップの柔軟さをあわせ持って活躍できる人材へと成長していくでしょう。
BICで働く社員の「希望するキャリア」について聞いてみると、新規事業立ち上げのプロフェッショナルとして組織で立ち上げに関わり続けたいという人と、いずれは自分で起業したり、立ち上げた事業で独立したいという人が半分ずついる状況です。
我々としても、社員のキャリアを制限することは考えていないので、独立してもよいし、一緒に続けてもいいと思っています。働き手にとって多様な選択肢を用意できる組織であれば嬉しいです。
ーーそういった懐の広さは、社員にとっての働きやすさにも繋がりますし、優秀な人材を引きつける魅力にも繋がりますね。展開されている事業の今後についてはいかがでしょう?
BICの中で動いている事業は年々増加し続けています。
このままBICで事業として続けていくのか、BICを出て独立した法人が担うのか、コニカミノルタ本体の事業として渡していくのかなど、これからは様々な選択肢の中から最適な解を見つけていくことになるでしょう。
もしかしたら、事業によってはスタートアップのようにVCからの出資を募ることもありえるかもしれません。いずれにしても、これまでの立ち上げ期とはまた一段違った動きになっていくと思います。
社内外問わず、新規事業の立ち上げや新しいビジネスにチャレンジしたい人は、ぜひBICで一緒に成長していけると嬉しいですね。
ーー引き続き、新規事業開発に向けた人材育成や、組織変革を支える研修などをお手伝いさせていただければ嬉しいです。本日は貴重なお話をありがとうございました。