ビッグデータが巷を賑わせていますが、どんな情報をどのように利用しているのかという実態が理解されていないため、ビッグデータ活用への疑問の声が聞かれます。ビッグデータの価値は大量のデータから新しい知見をもたらし、医療や都市計画といった社会問題を解決する点にあります。本記事では、各業界の最新事例からビッグデータが社会にもたらす価値を紹介します。
意思決定の高度化をもたらすビッグデータ
「おむつとビールの法則」をご存知でしょうか。スーパーマーケットの購買データを分析すると、おむつとビールが一緒に売れる傾向が見つかりました。そこで、子供を持つ父親がおむつを買いにきた際に、ついでにビールを購入しているという仮説を立て、おむつとビールを並べて陳列すると、売り上げが上昇したというエピソードです。このように大量のデータを分析することで、人手でのデータ分析では知り得なかった知見を得ることがビッグデータの利点と言えるでしょう。
ビジネス・科学・公共サービスの分野では、勘・経験・度胸といった目に見えないものに頼って意思決定を行う場面がまだまだ多く見られます。人間の意思決定に、ビッグデータ分析に基づいた定量的な評価を加えることで、より良い判断が行えることが期待されています。
ビッグデータとはなにか
総務省の「情報通信白書 平成24年版」によれば”ビッグデータは、どの程度のデータ規模かという量的側面だけでなく、どのようなデータから構成されるか、あるいはそのデータがどのように利用されるかという質的側面において、従来のシステムとは大きな違いがある”とされています。
具体的には、量的側面では数十テラバイトから数ペタバイト(a few dozen terabytes to multiple petabytes)までと非常に巨大なデータとされ、質的側面からは「高解像(事象を構成する個々の要素に分解し、把握・対応することを可能とするデータ)」「高頻度(リアルタイムデータ等、取得・生成頻度の時間的な解像度が高いデータ)」「多様性(各種センサーからのデータ等、非構造なものも含む多種多様なデータ)」といった特徴があるものが”ビッグデータ”と定義されているようです。
現代ではITの発展によりデータの生成・収集・蓄積が簡単にできるようになっています。次の章からは、そうして収集されたビッグデータが実際のビジネスでどう活用されているかかをまとめています。
目的
(例)
経営戦略、事業戦略の策定
売上データ等の社内情報や統計情報等の社外情報を幅広く収集・分析することによって売上への影響などを予測し、注力事業の決定や戦略立案を行う
顧客や市場の調査・分析
顧客データ・販売データ・SNSへの書き込みデータなどから消費傾向を分析し、ニーズや企業への評価を把握する
経営管理
経営データや売上データ、各部門から上がってくるデータを分析してこれまでよりも短時間で予実管理を行う
事務の効率化
RFIDやセンサーを取り付け稼働状況や位置情報を収集し、そのデータを活用することによって業務プロセスの効率化・最適化を行う
基礎研究、学術研究
センサーなどから収集される大規模データを有効活用するための研究開発を行う
在庫圧縮、最適供給
販売データや気象データなどから需要予測を行い、生産・出荷量の調整を行う。またRFIDやセンサーを取り付けてリアルタイムに在庫状況を把握する
次章からは、意思決定の高度化が実現された最新事例を見ていきましょう。
ビッグデータ最新事例15選 通信:スマホ接続率向上を実現したソフトバンク
ソフトバンク
ソフトバンクのデータ通信は”つながりにくい”とのネガティブな評価を受けることが多く、顧客満足度の向上が課題でした。ソフトバンクはスマートフォンから位置情報や接続状況などの個人情報を除いたデータを収集し、”つながりにくい”地域の特定を行ったのです。月間3億件とも言われるデータに基づいて接続状況を改善し、「接続率ナンバーワン」の座を獲得しました。
金融:「顧客の声」を活用する三井住友銀行
三井住友銀行
店舗やコールセンターには大量の「顧客の声」が寄せられ、音声やテキストで保存することができますが、年間3万5千件ものデータを手作業で処理するには限界がありました。三井住友銀行では好意的・否定的な意味を持った文章を抽出したり、商品やサービスに関する意見の増減を調べたりすることで、迅速に顧客サービスを改善することに成功しました。
交通:事故と渋滞を軽減する本田技研工業
本田技研工業
カーナビに通信機能を加えたサービス「インターナビ」登録者数200万人を超えました。会員車両から毎月1億キロに上る走行データを収集・分析することで、渋滞を回避するルート案内の提供や交通事故多発地域の特定による交通安全対策への提言など、社会に価値あるサービスを実現しています。東日本大震災発生時には被災地域の住民や救援者の移動を助けるために走行実績データを公開し、災害対策活動に大きく貢献しました。
流通:10%以上の省エネ効果を達成した日本郵船
日本郵船
SIMS(Ship Information Management System)の導入によりエンジンの回転数や燃料消費量などの船舶データと外部データを組み合わせて運行・配船を効率化し約10%の省エネ効果を達成しました。
運輸:グループ連携で顧客サービス向上を図る遠州鉄道
遠州鉄道
浜松市の約半数50万人をポイントカード利用者として持つ遠州鉄道は、鉄道・タクシー・デパート・ガソリンスタンド・宿泊施設などを運営するグループ企業です。顧客へのおすすめキャンペーンだけでなく、利用状況に基づいたバスの運行計画最適化にもビッグデータ分析を活用しています。
小売:コンビニ立地の最適化を進めるサークルKサンクス
サークルKサンクス
コンビニの成功は立地に大きく影響されますが、従来、出店計画はベテラン社員の経験に依存していました。人口、就業者数、交通量、店舗のサイズといった多種のデータを分析し、社員の定性的な評価と組み合わせることで、最適な立地をはじき出すことが可能になったのです。
製造:機械の稼働管理を行うコマツ
コマツ
コンピュータだけでなく、あらゆるモノに通信機能をつけて機械同士の連携を行う手法はIoT(モノのインターネット)と呼ばれます。建設機械大手のコマツは、各車両にセンサーを取り付け、位置情報や稼働状況を監視するビッグデータ分析の仕組みを構築しました。建設機械の故障原因特定や修理の迅速化によりコスト削減や稼働率の向上に寄与しています。
製造:飲料販売時の配置を決定するダイドードリンコ
ダイドードリンコでは、自動販売機にて飲料を販売する際の商品サンプルの配置を「アイトラッキング・データ」を元に決定しています。「アイトラッキング・データ」は、実際の自動販売機で商品を購入する際に顧客がどこを見て商品を認識しているのかを表すデータで、消費者行動に関するデータの種類を増やすことができ、分析の効果が上昇しました。
医療:手術プロセスと経営管理を最適化する岐阜大学付属病院
岐阜大学付属病院
大量なデータが存在する医療分野はビッグデータによる高度化が期待される分野です。50万人に上る患者の診療実績や年間4000件の手術データを解析することで、再手術の割合を3割削減や、薬剤費の最適化により年間2億円の医療費削減を実現といった大きな成果を上げました。
公共:5万トンのCO2削減を目指す柏市
柏市
ビッグデータによって高度な都市計画を進める取り組みは「スマートシティ」と呼ばれています。柏市では、道路に設置されたカメラやナンバープレート識別センサなどから交通状況の監視を行いCO2算出を行うスマートシティの取り組みを行っています。乗合バスや自転車共同利用サービスの運営などを組み合わせることで、CO2の削減を実現する計画です。ビッグデータによって、人々に気づきを与え、行動の変化を促すことを狙っています。
農業:農業情報サービスを提供するIHI
IHI
専用のカメラで撮影した画像から植物の活性度合いを把握し、小麦などの農作物の生育状況を把握することができるので、生育の状態に合わせ、適切な作業を行うことができ、収量の安定化につながっています。
金融:リスク管理を高度化する東邦銀行
東邦銀行
窓口取引、ATM、インターネット取引など、年間数億件の取引が銀行では行われています。ビッグデータ分析を行うことで、事務処理のミスや不正を暴いたり、マネーロンダリングや反社会的取引の特定を行ったりすることが可能になりました。
スマートメーターにより適切な設備コストを算出している関西電力
関西電力
電力量計に通信機能を搭載したスマートメーターを活用し、メーターからのデータをデータセンターに集約、このデータを活用して、ウェブを通じ電力使用量や電気料金を見える化するサービス「はぴeみる電」を展開している。また、変圧器等の容量について必要十分なサイズに縮小することができるため、年間10億円程度の効率化を見込む。
飲食:ICタグにより正確な需要予測を出したあきんどスシロー
あきんどスシロー
お皿につけてICタグによる鮮度管理により、いつレーンに流したかを把握し、鮮度管理を徹底。タッチパネルを用いた大人、子供の人数管理によりリアルタイムでの需要予測を実施。
公共:犯罪予測により治安を改善したサンタクルーズ市警
サンタクルーズ市警
米カリフォルニア州サンタクルーズ市では、犯罪が発生するリスクの高い場所や時間帯を予測し、犯罪を未然に防いだり、犯人を迅速に逮捕したりする試みを行っています。犯罪発生率、前科者の有無、街頭の有無などを分析することで、重点警戒地域を特定し、結果として17%の犯罪発生件数減少を実現しました。
ビックデータを活用する際に注意すべき点
ビッグデータの活用を進める企業が増えていく中で、注意するべき点があります。それは、相関関係よりも因果関係を見つけることが大事だということです。
相関関係とは、例えば気温が上昇すると冷たい飲み物の販売が伸びるように、いくつかの事象がそれぞれ関係性を持っている状態のことを指します。ただ、相関関係では、何がその効果をもたらしたのかはっきりとさせることは難しいと言われています。先ほどの例だと販売が伸びたのは商品の配置が影響しているかもしれませんし新しいキャンペーンやCMの効果かもしれません。このように明確に○○だからこうなった、ということが難しいのが相関関係です。
因果関係とは、原"因"と結"果"が明確にわかっている状態を指します。
ビッグデータはいろいろなデータを集めますが、一見すると因果関係がありそうですも実は明確にはできず相関関係に止まることもあります。活用するためには何が因果関係にあるのかをはっきりさせることが重要です。
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